APNIC財団
APNICとAPNIC財団は「アジア太平洋の全地域に貢献するグローバルでオープン、安定、安全なインターネット」という共通のビジョンを分かち合っています。財団は定款に基づき、「香港およびその他のアジア太平洋地域で活動を実施する、または活動に資金を提供することによって、インターネットインフラストラクチャの技術上・運用上・ポリシー上の問題に関する教育を非営利ベースで推進します」。
2016年9月に香港で設立されたAPNIC財団が資金を提供するプロジェクトと活動は、インターネットの発展に関心をもつ資金提供パートナーと共同でAPNICが企画・運営します。活動を実施するのはAPNICと、増加中のコミュニティトレーナーやテクニカルアドバイザー、志を同じくする他の組織などです。このようなパートナーを支援し能力を構築することと、財団の資金を地域内で利用することを優先課題としています。
APNIC財団の最大重点項目は人材育成であり、APNICの中核的なコミュニティとして地域内でインターネットを構築し運営するネットワークオペレーターが専門能力の開発を進めることです。財団はトレーニングと教育に加えて、特定の状況で必要とされることが多い直接的な技術支援も提供しています。
このような活動で優先度の高いトピックとしては、インターネットとDNSインフラストラクチャのセキュリティ、IPv6の普及促進と展開、相互接続点および関連インフラストラクチャの開発、運用上のベストプラクティスの推進などがあります。
APNIC財団は技術発展を拡大しインターネットがアジア太平洋地域にもたらす恩恵を最大化するために、財団、個人、開発機関、インターネットに大きく頼る団体および産業界からの支援を求めています。
財団に関する詳しい情報についてはhttps://apnic.foundation/ をご覧ください。
財団は特に開発水準の低い国と地域への支援を歓迎します。当財団の活動について興味のある方や支援を希望される方は、[email protected]までお問い合わせください。
アジア太平洋地域におけるインターネット
アジア太平洋地域の数十億の人々にとって、インターネットは仕事やビジネス、医療、教育など生活の様々な面を支える必要不可欠なものです。多くの人はインターネットを当然の存在とみなし、必要な時はいつでも手頃な費用で利用でき信頼できるものだと思っています。
アジア太平洋地域全体を見ると、インターネットサービスの可用性、安定性、速度、セキュリティは場所によって大きく異なるのが実情です。地域内の多くの発展途上国では、ユーザーは先進国では許容できないような状況を受け入れざるを得ず、このため本来インターネットが与えるはずの大きな恩恵が受けられずにいます.
インターネットの成功を左右する最大の重要な要素は、サービスプロバイダーがネットワークを適切に構築し管理する能力です。安全で信頼性が高く効率的なインターネットインフラストラクチャのためには、責任をもつ全ての企業と管理者、技術者が、国際標準規格でネットワークを運用・管理するスキル、すなわち人的能力をもたなければなりません。
企業は「いつでもオンライン (always on)」という信頼度の高いサービスを提供すると同時に、多くの場合激しい競争環境下にありながら、急成長を計画・実行し、増え続けるセキュリティ問題に対応し、IPv6などの新技術に適応しなければなりません。
IDCのテクノロジー・アナリストによるレポートではそのような技術スキルの不足が次のように警告されています。「アジア太平洋地域では新しい技術によるネットワークのスキルをもつ人材に対するニーズと、高付加価値活動に特化した熟練チームに対するニーズが高まる傾向がみられる」。
IDCのレポートでは2012年末に地域内で(大中華圏と日本を除く)25万人以上のネットワーク専門技術者が不足すると予測されています。この
技術的課題
同時にこの地域では、安定した安全で効率的なインターネットの発展を妨げる大きな障害となる技術的・規制上の課題が、以下に列挙したものを含め、増え続けています。
- 安全性と安定性: サービス不能 (DoS)攻撃からハッキング、マルウェア、データ漏洩まで、セキュリティは地域全体のネットワーク技術者と管理者にとって常に最優先事項です。同様に各国政府も、インターネットへの社会的信頼と景況感に多大な影響を与えるインターネットセキュリティ問題に対する懸念を深めています。
- IPv6への移行: 現在分配されているIPv4アドレスの在庫は全世界で枯渇したため、アジア太平洋地域における将来的なインターネットの発展のために唯一実行可能なオプションはIPv6だけです。これはインターネット関連製品とサービスを提供する関係者全員にとって運用上の大きな課題です。
- 効率性と費用: インターネットサービスの効率的な運営はインターネットサービスの競争力とエンドユーザー側の費用に直接影響します。世界中で得られているインターネットの恩恵を地域社会が受けるためには、同等の費用でサービスにアクセスできることが必須条件です。
- ローカリゼーション: ネットワークは可能な限りトラフィックとコンテンツを集約する必要があります。相互接続点 (IXPs)とデータセンターによってローカルのトラフィックとコンテンツはローカルのまま維持することができるため、速度と効率性が向上します。
- 成長の管理:インターネットサービスプロバイダーは常に成長を続けるというプレッシャーを受けており、ほぼ絶え間なくサービスの拡大と改善を計画し実行すると同時に、ここで挙げられたその他多くの技術的課題に対応しなければなりません。
- 規制とガバナンス: インターネットは多くの場合新技術と技術的要素に大きく影響される結果として、新しい独特の規制問題を作り出しています。このような問題の解決方法は、地球規模のインターネットガバナンスならではの、マルチステークホルダーによるプロセスにかかっています。
- 情報: インターネットの急速な成長と技術向上に伴い、問題の発生点を理解し、将来の問題を予測し、それらを解決するために、より多くの、焦点を絞った研究を行う必要があります。
インターネット全体で、そしてインターネットに頼るあらゆる社会において、これらの技術的課題と規制上の問題を克服するためには、新しい特定のスキルと専門知識が必要となります。私達の地域がこれらの課題をうまく対処できるかどうかは、それを実行する人的能力の育成によって決まります。
コミュニティによる対応
アジア太平洋地域で、インターネット技術者は堅固で耐障害性のある効率的なネットワークを有効に構築し管理するために最善を尽くしています。多くの国で、専門家同士のネットワークやコミュニティ団体は技術者が知識の共有や専門能力の開発のために利用するメカニズムとしてその重要性を高めています。
これらには技術向上と運用改善に関するネットワーク・オペレーターズ・グループ(NOGs)、セキュリティ問題に関するコンピュータ・セキュリティ・インシデント対応チーム(CSIRTs または CERTs)、業界内の調整に関するインターネット・サービス・プロバイダー協会(ISPAs)などがあります。
このような団体はインターネットを構成するネットワークの開発と管理において重要な役割を果たしています。また、トレーニングと能力開発を地域内のコミュニティに直接提供する理想的な能力開発パートナーでもあります。
APNICによる対応
APNICはアジア太平洋地域における地域インターネットレジストリ(RIR)として20年以上にわたりインターネットの健全な発展のために貢献してきました。
非政府・非営利の会員制組織であり、世界に5つあるRIRの1つとしてインターネット(IPv4 および IPv6)の運用に不可欠な重要番号とアドレス資源の管理を責任をもって担当しています。
サービスを提供するアジア太平洋地域の56の国と地域の合計人口は世界総人口の半数を超え、グローバルなインターネット開発の大半が今後数年間に行われるこの地域で、APNIC は地域のインターネットインフラストラクチャを共に構築し管理する、12,000以上のISPおよびその他ネットワークオペレーターを支援しています。
APNICの開発の重点は、人材やインフラストラクチャ、コミュニティなどの「能力開発」に置かれています。APNICはインターネットに遅れを取らず、熟達し、十分活用するためには、意義のある方法で地域の能力を構築する必要があると考えています。この信念を支援するためにAPNICは長年をかけて以下のような幅広いサービスを提供する開発プログラムを構築し、高い評価を得て成功を収めてきました。
トレーニング
APNICの技術トレーニングはインターネット技術者が知識と専門技術を向上させ、現在のベストプラクティスを確実に導入し利用できるようにすることを目標としています。これによって技術者はインターネット資源を十分かつ効率的に使用し、新しい技術とテクニックを効果的にネットワークに応用できるようになります。
この重要な任務を支援するためにAPNICはコミュニティトレーナープログラムを確立しました。コミュニティトレーナーはある分野に特化した専門家で、APNIC内部のトレーニングチームと密接に協力し、地域での運用問題に関する知識を深め、講習会やワークショップ中に対話型議論を推進する役割を果たします。
技術支援
APNICの技術支援は、地域内のインターネットコミュニティが国際的に認知された現在のベストプラクティスを利用して耐障害性のある拡張性の高いネットワークを開発維持することをサポートします。
APNICは広く認められたインターネットスペシャリストと協力してAPNICの中核となる能力とサービスにカスタマイズしたテクニカル・メンタリングを提供し、実用的な方法でインターネット技術に関する技術的な理解を深め、ルートサーバとIXPsを展開するための技術支援を行います。
セキュリティ
インターネットセキュリティは全ての企業、政府、インターネットユーザーにとって根本的な問題です。またそれはインターネット関連企業とネットワークエンジニアにとって大きな負担となっています。中心課題は専門知識であり、サイバーセキュリティーはインターネットのインフラストラクチャを構築し運営する技術者から始まることを認識する必要があります。
インターネット・エコシステムのセキュリティを担う重要な部分はコンピュータ緊急対応チーム(CERTs)です。APNICは地域でのCERT育成や教育と、各国における特定のプロジェクトを支援しています。
インフラストラクチャ
APNICは相互接続点(IXPs)やDNSルートサーバ、インターネットとトラフィックを監視測定する重要なインフラストラクチャなどの展開をサポートし資金を提供しています。APNIC はアジア太平洋地域で最初の新しいDNSルートサーバを2000年に導入開始しました。
また、この重要なインフラストラクチャが効率的に運営されるよう確実にするため、APNICは発展途上国の地域社会に特に焦点を絞ったIXPsの導入と管理に関する技術トレーニングと技術支援を提供しています。
フェローシップ
毎年APNICは、アジア太平洋地域のインターネットコミュニティの会員が技術トレーニングと会議に参加し国際的に認められたエキスパートと交流し学習するためのフェローシップを提供しています。APNICフェローシップ・プログラムは特にコミュニティの多様性をサポートすることに重点を置き、女性や若者、開発途上国からの参加者を確保しています。
APNICとアジア太平洋インターネット協会(APIA)はアジア太平洋地域インターネット運営技術会議(APRICOT)を毎年共同開催しています。この会議と年2回開かれるAPNIC会議は地域内で最も重要なインターネット技術関連イベントであり、いずれも中立的な非営利ベースで実施されます。
コミュニティの発展
またAPNICは、ネットワーク・オペレーターズ・グループ(NOGs)、ピアリングフォーラム、専門技術者団体、各種イベントなど、アジア太平洋地域で成長中のコミュニティを積極的に支援しています。これらの多くはインターネットの運営に関して重要な役割を果たす任意団体で、トレーニングや地域の技術コミュニティ間の情報交換を推進しています。
このようなイベントが各国レベルとサブ地域レベルで広く認められる重要な活動として確立するように、APNICは後援だけでなく技術プレゼンテーションとトレーニングも提供しています。
インターネットガバナンス
グローバルにインターネットの管理運営をサポートするマルチステークホルダーのコミュニティは、成功のカギとなる重要な部分です。APNICはアドレス資源とドメイン名を注意深く確実に調整するためにインターネットガバナンスに関するトレーニングを提供することで、地域内のパートナーと協力しサポートしています。APNICはインターネットコミュニティが政府機関や規制当局と緊密な対話を維持する努力をすること、またそれらがコミュニティのポリシー策定に積極的に関わることを支援しています。
助成金と賞の授与
APNICは、インターネットを活用してアジア太平洋地域の社会・経済開発を目指す国内および地域内のプロジェクトを援助する、情報社会イノベーション基金(ISIF Asia)という助成金と賞の授与プログラムを運営し成功を収めています。
高く評価され確立したプログラムとして数々の重要な率先的取り組みを支援してきたISIF Asiaは、手頃な費用で効率的なインターネットインフラストラクチャとサービス、革新的なインターネットアプリケーション、インターネットサービスを提供する持続可能な成功モデルに出資しています。
研究
APNICはルーティング、セキュリティ、DNS、IPv6、ポリシーおよびIPアドレス問題などに関する世界トップレベルの研究開発に率先して取り組んでいます。このような研究の目的は、APNICの運営活動やポリシー作成に情報を役立て、コミュニティの会員がグローバルなインターネットに対する理解を深めるよう支援することです。
また、APNICのコミュニティが技術的問題に対する理解を深めることでその発見につなげ、可能な解決方法と対策を提案することにも役立ちます。